秩父弁だんべぇ

声と音

「夜中にそんなでっけぇ音を出すもんじゃねえよ。」夜、兄弟げんかでもすると、お婆さんにこう言って叱られたものだが、この頃はその言い方には違和感があるようだ。

『万葉集』の歌には「水の音」と「鴬(うぐいす)の音」が並存(※)(へいぞん)している。「鴬の声」もある。「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり」は有名な『平家物語』の書き出しだが、『栄華物語』は「祇園精舎の鐘の音」と表現している。

源平の合戦では武将たちが大声で「遠からん者は声(おと)にも聞け、近くば寄って目にも見よ」と名のりを上げている。こういうのを大音声(だいおんじょう)を上げるといった。大きな音声である。

つまり、昔は音も声も一緒だったのだ。人の声からはじまる評判や風評も「音に聞く」といい秩父では有名人を「音をぶった人」などとも言った。便りも、音信、音沙汰である。手紙も電話もないことを、この頃は音もたてないなどという。声は生物が発し、音は無生物という言語感覚はごく最近からの物である。

※並存(へいぞん)とは、二つ又はそれ以上のものが同時に存在すること

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