「ドス濁り」の巻
このところ異常気象が続いて、ひとたび台風がくれば各地で甚大な被害をこうむっている。台風のもたらす大雨の象徴は河川の濁流である。この濁流をボタ濁りというが、秩父独特の言葉にドス濁りがある。
ボタ濁りは真っ黒な石灰の泥土からきたものと考えられる。石灰産業が盛んな頃には、どの炭坑にも石灰のクズを積み上げたバタ山があった。ドス濁りのドスは濁った赤石や黒色というドス赤いドス黒いのドスである。
これは炭焼き用語からきているもの。米が租税の中心であった時代、米の獲れない山国秩父では、薪炭や養蚕など、換金性のあるものを作って金で年貢を納めるほかなかった。
独特の技術と生産過程を要する炭焼きには、それなりの独特な用語がある。
カマの中で薪が炭火するときに出る、木のヤニの臭いをもった黒煙をドスとよぶのもこの一例である。
あの濁った黒煙の呼び名を川の濁流の呼称に援用したのも、秩父人の生活に根ざした発想としてごく自然なものだったのである。