「キリバン」の巻
前回「魚は明治以降の言葉」と書いたところ、江戸時代に一心助という魚屋がいたではないかという反論があった。
だが、あれは物語作者による架空の人物で、いうならば魚商人である。
古代、鳥獣の肉や魚、野菜など副食物は総じてナといった。
では、サカナとは何かというと、漢字で肴の字を当てているとおり、酒を飲むときの副食物のことで、その代表格が魚だったのでいつしか魚=サカナというようになったもの。
魚はナやサカナのなかでも最も美味で、冷蔵技術のない時代には貴重品だったから、真のナという意味で真魚ともよばれるようになった。
その魚を料理する板が真魚板(盤)なのだが秩父地方では切り板(盤)というのが普通だった。
魚が入手しにくかった時代には、海から遠い山国秩父では真魚板で料るほどの魚などまずなかったから、もっぱら菜、大根を切る板として「切り板」だったのである。