「ほしすみれ」の巻
春一番に咲く花はというと幾つか思い浮かぶが、地面にひっそりとはりついて咲く、イヌフグリとよばれる薄紫の小さな花も一つだろう。
しかし、なぜかイヌのついた植物の名にはあまりかんばしいものがない。
野草でいえばイヌセリ、イヌタデ、イヌワラビなど。
これらは似ているが本物ではないという意味の名称で、どうやら「否」がイヌに訛ったものらしい。
犬にとってはいい迷惑な話である。
だが、もっとひどいのはヤブタバコがイヌノシリ、ドクダミなどイヌノヘドクサたよぶ地方もある。
では、イヌフグリはというと、フグリとは陰嚢の古語で、俗に言う金的のことである。
あんな可憐な花が犬の金的とはこれまた理解に苦しむような名付け方だが、秩父の方言ではホシスミレ。
これならあの清楚な花のイメージにぴったりで、御当地贔屓ではないが、秩父の人の優しい心根が偲ばれる呼び方である。