「てしらめる」の巻
関東平野をはじめ、平野と名のつく所は文字通り広々としているが、そこには意外に平のつく地名は少ない。逆に、狭い山間地ほど平のつく地名が多いのはなぜだろうか。
例えば、切り立ったV字谷の大滝中津川沿いには、宮平・椚平・萩平・塩平・浜平・萱平・栃平などの平地名が並んでいる。
その疑問を解くカギは、テーラメルという秩父独特の方言に潜んでいる。漢字で書けば平める。「定む→定める」、「温(ぬく)む→温める・温とめる」、「撓(たわ)む→撓める」のように、メルをつけると「ある状態にする」という意味になる。それに習って、秩父では「平める」という言葉を作りあげた。
その理由は、山国秩父は傾斜地ばかりで、生活に必要な平地は人工的に作る他なかったからである。その代表が石垣である。傾斜地に石垣を築いて僅かな平地を造って家を建て畑を作る。これを指して平めると言った。それゆえに自然にできた平はどんなに小さくても貴重なものとして、平地名で呼んだものである。