「エビシ」の巻
西秩父にはエビシという郷土料理がある。胡桃やピーナッツ、柚子の皮、生姜などを刻んで胡麻、砂糖、醤油、酒を加えた小麦粉を水で練り、棒状に丸めて蒸し上げたもの。戦国時代から伝わる保存食といわれて、盆正月、冠婚葬祭には、欠かせない料理だった。
実はこれ柚餅子(ゆべし)が訛ったもので「御湯殿上日記」の1484年の条に、ユベシを供したことが記されている。1643年刊の「料理物語」には作り方が「柚子を切りて実を捨て、味噌、生姜、胡麻などをよくすりて、かや、胡麻、あんにん、そのまま入れまぜて、ふたを合わせからげ、よく蒸して干し」とある。柚子をくり抜いて作るのが本来の柚餅子で室町時代から保存食として酒の肴などに利用されてきた。
江戸中期から各地で独特な工夫がなされ、寒天や牛皮を使った菓子の一種も生まれて、よび名も本来の意味を忘れてエビシ、エベスなど地方色豊な名称に変化していったものである。