「うっける」の巻
「ここへウッケとくからな」というように、秩父では載せることをウッケルといった。ていねいに言うつもりか、ウチケルと言うこともあった。また、エッケルとかイッケルという言い方もした。
ウッケル、エッケルという言葉は辞書にはなく、つかっているのは秩父全域と、志賀坂峠で結ばれている群馬の一部だけのようである。ただ、イッケルは江戸語らしく、江戸庶民の言葉として文学作品に記されている。例えば江戸の川柳に「一字ずついっけてまわるかきつばた」という句がある。これは『伊勢物語』(九二八年頃)で、主人公の在原業平が旅の途中でかきつばたの花を見て、これを折り込んだ歌を作れといわれて「かきつばたきつつなれにしつましあればはるばるきつるたびをしぞおもう」と歌った故事を茶化したものである。
それが残っているらしく、イッケルだけは埼玉全域でつかっていた。ウッケル、エッケルは同じア行音としてイッケルが変化したものと考えられる。