秩父弁だんべぇ

あちーにあたる

本誌前号発行のご挨拶に、七月の話題として「いまいう熱中症は一昔前は日射病と言った」という趣旨の一文があった。これを読んで思い出したのは「暑(あち)いに当たる」という言葉だった。昭和10年生まれの私が子どもの頃は、秩父ではもっぱらこれだった。これはいまでも薬の効能書きなどにある「暑気当たり」の秩父版である。「暑気当たり」は江戸時代の文献に見えるが、他に「暑気に入る」、「暑気に負ける」などがある。
 九〇〇年代後半の『落窪物語』や『宇津保物語』などには「暑けに悩む」とある。暑気はアツケと読んだりショキと読んだりするようである。暑気に悩むことは地方によっては「暑気(しょき)煩い(わずらい)」とも言う。
 ところで「熱中症」の中は命中とか中毒ともいうように「当たる」ことだから、秩父でかつて言っていた「暑いに当たる」とは、まさに熱中症になるということなのである。

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