「シマク」の巻
日本列島を吹き抜ける強い風を伴う豪雨を、いまは台風とよぶが、昭和の前半
頃までは嵐(あらし)というのが普通だった。嵐とは山風と書くことから、山から吹き
下ろす強風と思うところだが、実は“アラシ”とは元来、荒風(あらし)なのである。
“シ”は風の最も古い日本語だった。
山の多い日本列島では、荒々しい風は山から吹き下ろすことが多いので、嵐の字を当てたものだろう。赤城颪というように、特定の山からの風は颪(おろし)と言う。「吹き下ろす」の“オロシ”と風を表す“シ”を掛けたものだろう。
旋風(つむじ)も“シ”だが、それを忘れていまではツムジ風などということもある。風が激しく吹きまくることを風(し)巻(ま)くと言ったが、これはすでにほとんど死語となっていて、秩父にはわずかに残っている。焚火などをしていて、風向きがやたら変わると「今日は風がやたらシマクなぁ」と言う。風が吹き荒れて空が急に暗くなったりすることをシマッ暗(くれ)ぇというのも独特の秩父方言である。