「キネー・イガネー」の巻
秩父方言の一つの特徴はカ行にある。「来る」は普通にクルだが、「来(こ)ない」となるとキナイと言う。それを更に秩父風にキネーと言うから、他所の人には不思議がられる。
「行く・行かない」は、今ではほとんど標準的になったが、昔の秩父では「行グ・行ガネー」が普通だった。
蟹はガニで、ガニンドー、ガニンチョロなどと言ったものである。沢ガニ、たらばガニなど、上に何かつけば、「田(た)」が上田(だ)、「沢(さわ)」が小沢(ざわ)になるように、連濁音といってガニとなるのも自然なのだが、端(はな)からガニというのは珍しい現象である。
「食いつく」はキーツク。犬にキーツカレたと言う人もいた。たしかにクウを早口で言えばキーとなるのだが、私が子どもの頃にはもう老人しか言わなかった。テープにでも録音しておけばよかったのにと今にして思うのだが、そういう会話が飛び交っていた時代には、録音機など放送局にしかなかったのである。