「ぼや」の巻
秩父でもボヤと聞くと、小火災しか思いつかない人が増えている。まして、ボヤマルキなどと言うと「何それ」となる。
火災のボヤと逆に、ヤを高く言うボヤは、薪(たきぎ)にする雑木の秩父語である。ボヤマルキはボヤを束ねること。一般的には雑木は柴(しば)という。だから、薪取りは「柴刈り」と言った。
「爺さんは山に柴刈りに」のシバである。
秩父ではシバは落ち葉の事で、初冬になると、農家では畠に敷き込む肥料として、デーマン篭(かご)という大きな篭を背負い、竹製の熊手を担いで、山にシバ掃きに行ったものである。
昭和生まれの私たちも、ボヤ拾いやシバ掃きに行かされたものだ。だから「爺さんはシバ刈りに」と聞くと「シバは掃くもんで、刈るもんじゃアなかんベェ」と違和感があった。
今思えば、落ち葉のシバはシバッパとも言ったから、柴の葉という意味だったのだ。雑木(しば)とは言わなかったのに、落ち葉だけは柴っ葉といったのは何故だろう。
ボヤは広辞苑にもない。純然たる秩父地方独特の言葉である。