「むし」の巻
アチャ・ムシ・ダンベに吊るし柿-と、秩父音頭にうたわれたムシは
「寒いムシ」、「そうだムシ」とつかわれる秩父方言の代表的な言葉だった。
ムシのルーツは「申す」で、お祭りに神主さんが上げる祝詞の
「かしこみかしこみ申す」のマウスが現代の「お早うございマス」のマスとなり、
呼びかけるときの「申し、申し」のモウシがムシとなったものである。
夏目漱石の小説『坊ちゃん』の会話に愛媛方言の”ナモシ”が出てくるが、
これも「な申し」だからムシと親戚である。
童謡『兎と亀』で「申し申し、亀よ、亀さんよ」と呼びかけているが、
これが電話のモシモシに残っている。
秩父方言で言えばこれもムシムシというところだが、
秩父ではムシが消えはじめてから電話が普及したから、共通語のモシモシになってしまった。
因みに、戦前まで、秩父には人に声をかけるとき「ムシ」という年寄りがいたものである。