「けっとばかす」の巻
今でこそ車社会になって坂道も苦ではなくなったが、かつて長く続いた自分の足で歩かなければならなかった時代には、物の運搬も労働も全て人力で行う他はなかった。箸より重い物は持たないというお公家(くげ)さんの言葉と違って、秩父言葉はきついというのも、過酷な自然環境と生活に起因するものである。
例えば「掻(か)っ飛ばす」のように「飛ばす」の頭に「掻(か)っ・蹴(け)っ・突(つ)っ・張(は)っ・吹(ふ)っ」等の語を付けて強調するものは数えきれないほどあるが、その言葉の中間に特定の音(おん)を加えて更に協調する事もあった。
「掻っ飛ば(か)す。蹴っ飛ば(か)す、突っ飛ば(か)す」等、同じ「飛ばす」でも、
(か)を加えることによって、ずいぶんその様態が協調されて、力強い感じになる。
「落ちる→落っ(こ)ちる」「突き抜く→突っ(こ)抜く」「いじる→いじ(く)る」などと
並べて見ると、加える音には固い響きを持つカ行音が多用されている事が分かる。