サミズ
秩父山塊は東京の水の供給地である。飲用水としては小鹿野の毘沙門水が有名である。
箱根山麓のある有名レストランでは、毎日、城峯山から湧き出る神川の水を運んで使っている。
名物の箱根の名水のなかでも、更に秩父の名水が求められているのである。
この頃は浄化や消毒をしていない水を天然水などと言うが、秩父ではかつてこれをさ水とよんだ。字を当てるなら、そのままという意味の素足や素っ裸の素だろう。
ものをそのまま陽にさらす事をさ干(ぼ)すという。今から一〇三五年も前の歌集『曽丹集』に「山姫の染めてはさ干す衣かと見るまで匂ふ(におう)岩つつじかな」の用例がある。
スとサは音が通じやすいから素水(すみず)をサミズと言ったものだが、この頃は秩父でもほとんど聞かなくなった。そのため、昔はサミズと言ったと聞いても?と思う人がいるかもしれないが、今でもつかわれているさ湯という言葉を思い出してみれば、納得がいくだろう。