「ハナァカケル」の巻
春は祭りの季節。神楽太鼓や歌舞伎の三味線の音色に心を浮き立たせる。舞台脇の掲示板にはそうした芸能奉納の協賛金を大書した紙が所狭しと貼り出されて、華麗な雰囲気をかもし出す。これを秩父ではハナァカケルという。「花を掛ける」である。
これは元、芸人や相撲取などにご祝儀の金品を贈るとき、その包みに花の咲いた枝を添えて渡した習慣から出たものである。この習慣が始まったのは、町人文化が花開く1600年代の中頃である。
その頃の芸能や芸妓関係の物語に「芸者に花をとらせ」、「舞台への花の枝は」、「銀一両位いの花を出す」等の表現がよく見られる。
ところで遠方からの観光客が祭り歌舞伎を見て感動し、少々ご祝儀をと思ったところ、掲示板に三万~五万とあるものを見てビックリして取り止めたという話がある。
実は、この金額は実額の十倍。かって芝居(しばい)だから四倍(しばい)と洒落たのが、いつしか景気付けにと十倍に書くようになったものである。